研究概要

 生命には様々な定義がありますが、様々な反応が制御された有機体と考えることができるでしょう。これらの反応を効率よく正確に制御するために大きな役割を果たしているものが「酵素」です。逆に、酵素とは生体内でこの目的のために進化し続けてきた触媒と考えることができるかもしれません。酵素が獲得している二つの特徴、「効率」と「正確さ」は、一般に化学反応で利用される白金やニッケルといった金属触媒と比較すると、より鮮明に理解できるでしょう。酵素は、常温・常圧の温和な条件下で金属触媒よりもはるかに高い触媒効率を有し、触媒する反応と反応を受ける物質(基質)を厳密に(特異的に)選択します。 酵素はいかにしてこのような性質を獲得したのでしょうか?酵素は多種類のアミノ酸の重合体であり、複雑な立体構造の中に基質と適切に相互作用できるポケット(基質結合部位)を形成しているのです。そして、この相互作用には水分子が大きな影響を及ぼします。水中における酵素と基質との微妙な結合こそが、酵素独自のすばらしい特性を発揮する源と考えられているのです。


 当「酵素化学」研究室では、これらの考えに基づき、溶液中での酵素の構造と機能に焦点を当て、酵素機能の解明に取り組んでいます。「触媒」とは、それ自身は反応の前後で変化せず、反応の平衡を移動させることなく反応の速度を増大させる物質のことです。しかし、酵素の場合、その巨大分子性のゆえに反応の途中に形成される酵素と基質の結合した様々な反応中間体の存在が重要です。当研究室の特殊な装置を用いて、E+S→ESに対応する非常に速い反応を測定した結果を左に示します。これはほんの一例ですがこのようにして酵素の反応機構を詳細に解析することができます。


 私たちの研究の目的は酵素機能の解析と創造を通して社会に貢献することです。酵素に関する詳細な知見を蓄積することにより、酵素の構造と機能に関する一般的な法則を明らかにし、私たちが望む機能を持った酵素を自由に設計することを夢見ています。酵素は様々な産業で用いられていますが、特に、食品の製造、化粧品、医薬品の製造、病気の診断等における酵素の利用と応用を目指しています。 


研究内容は以下のとおりです。


a) 研究・臨床診断用酵素の機能改変
b) 食品中の酵素阻害物質の探索
c) 食品原材料製造用酵素の反応制御
d) 有用酵素の創製を目指した基礎研究