研究概要

 酵素は触媒活性を持つタンパク質の総称です.生物の営む多様な反応(生命の反応)は,体内の多種多様な酵素により効率よく行われ,正確に制御されています.それぞれの酵素は,それぞれの「はたらき(機能)」に適した「かたち(立体構造)」を持っています.この「かたち」を基にして,酵素の「はたらき」の仕組みの理解,有用な「はたらき」を持つ酵素の探索,既知酵素への新たな「はたらき」の付加に取り組んでいます.これらにより,食品や医薬産業などへの酵素利用を目指しています.

現在の中心的なテーマは下記の通りです.

●ピロリン酸を利用するリン酸化酵素の探索と改変
 化合物のリン酸化は生体内で普遍的に見られる反応で,代謝・遺伝子の発現制御など様々な必要不可欠の場面に関わっています.一般に生体内でのリン酸化反応におけるリン酸基供与体はATPですが,一部の酵素はATPの代わりに価格が1/1000程度のピロリン酸(PPi)を用いています.このような酵素を利用することにより,うまみ調味料として利用されるイノシン酸をはじめとした,リン酸化物の生産コストの大幅な低減が期待されます.
 これまでに知られているATPを利用する酵素とPPiを利用する酵素全体の立体構造は,互いにとても良く似ていますが,ATPやPPiを認識する部位の特徴はわずかに異なります.このわずかな違いを手掛かりに,AIなども利用しながら遺伝子データベース内に眠るPPi利用型の酵素を探索し,実際の活性を実験で確認します.このようにして見いだしたPPiを利用する酵素の機能発現の仕組みの理解や,その理解を基にした改変などを通して,目的の化合物をPPiでリン酸化できる酵素を作り出したいと考えています.




●テルペン合成酵素の理解と利用
 テルペンは多様で複雑な炭素骨格構造を持ち,ホルモン・香料・医薬品原料など,幅広い生理活性ならびに利用法を持つ化合物群です.テルペン合成酵素はI型とII型の二つの型が知られていますが,近年これらの分類に当てはまらない酵素が立体構造予測などを基に発見されてきています.これらの新規酵素の機能を詳細に解析し,反応ポケット周辺の構造を改変することで,これまでにないテルペンを合成する酵素を創出したいと考えています.